大判例

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東京地方裁判所 昭和41年(刑わ)2727号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕被告人らの各弁護人らは、被告人らの検察官に対する各供述は被告人らがいずれも病気や長期勾留による肉体的精神的苦痛の下にあり、さらに被告人伊藤についてはその経営する会社倒産にひんするという状態にあつて、警察官の強制あるいは誘導的で執拗な取調べを受け、さらに検察官からもその影響の下に同様取調を受け、早期釈放を期待して、これに屈服するか、あるいは迎合的に供述したもので、任意性がなく、またその内容には不自然かつ不合理で、作為的な供述部分が多く、その信用性もないと主張する。

そこでまず被告人伊藤の供述について検討するに、前掲証拠および同被告人の司法警察員に対する各供述調書、証人松田昇の当公判廷における供述、証人村上甲子郎、同岡田泰二の各尋問調書、岡田泰二作成の被告人伊藤についての「診断治療記録の内容写」と題する書面、瀬木嘉一作成の診断書、被告人伊藤についての逮捕状並びに勾留状を総合すれば、被告人伊藤は昭和四〇年一二月二日別件の贈賄被疑事件につき警視庁に任意出頭を求められて取調を受け、翌日広島南警察署に任意出頭を求められ、同署において、同月四日から同月七日まで右被疑事件につき連日警察官の取調を受け、また翌八日検察官の取調も受け、その間本件についても取調を受けたが否認を続けていたところ、同日被告人今西が本件の一部を自供したということから、帰京するため飛行場にいたところを、急遽呼び戻され、同月九日前記警察署に任意出頭を求められて取調を受け、その際被告人今西の自供を告げられて、自らも自白し、同日午後七時に逮捕され、同月一〇日から、同月三〇日まで勾留され、その間警察官からは同月一七日、二一日、二六日、二九日に、検察官からは同月一〇日、二七日、二八日、二九日にそれぞれ取調を受けて、供述調書が作成されたこと、また被告人伊藤は本件逮捕前から胃潰瘍と肝臓障害の疾病があり、勾留中も常時ふとんが敷かれ、安静に出来る保護室に収容され、同月九日と同月二一日の二回医師の診察を受け、右の疾病の外心不全の診断を受けたが、医師は胃潰瘍が重篤なものではないかとの疑いを抱き、精密検査の要を認め、警察官に対しては大切にして欲しい旨告げ、二一日には疼痛緩和のため注射をするとともに、その後連日投薬していたことが認められる。

そして被告人伊藤は当公判廷で、「一刻も早くここから脱したい気持であつた。」とか「本当にあそこで死ね思いをした。」とか述べ、捜査官の取調べについては、その理詰めの質問にあくまで反論することができず、また供述内容も要約あるいは省略され、ニユアンスの異る供述として録取されたと述べている。

そこでその内容を検討するに、右調書には本件に至るまでの経過等について客観的事実と合致しない点がないではなく、また自己の行為の心理過程の供述や、他の被告人らの心理についての推測的供述部分は捜査官の推定的見解に基づく誘導的あるいは理詰めの質問に反論できないままこれを容認したと思われる部分も認められるけれども、被告人今西との本件金員贈与の共謀をしたこと、同被告人との間でその後これにつき連絡あるいは協議したこと、昭和三九年一二月一〇日ごろ被告人畠山からから本件金員を返還された際および昭和四〇年五月一八日再び同被告人にこれを交付した際に同被告人とやりとりをした言葉、その場所、その時の本件金員の状態、同被告人の前判示競走場移転許可の件については感謝し、お礼をしたいという気持を抱いていたことなどについては、その語句、表現が多少異る外は、勾留中のみならず釈放後も、終始ほぼ同一の供述を繰り返えしており、それはまた当公判廷の同被告人の供述とも大部分の点で一致するものである。

そしてなお被告人伊藤の当公判廷における供述によれば、拘置所の病監に入るのが良いといわれたのに、たえられるから保護室に置いてくれといつたこと、釈放後も別に入院せず、通院加療で胃潰瘍は軽快に向い、会社のたて直しに奔走したことが認められるから、前記の疾病等が、勾留および取調にたえない程重いものであつたとは認められず、そのために同被告人が虚偽をいうおそれがあつたとも認められず、その外に捜査官による強制等の行われた事実も認められないから、その供述は任意性に欠けるところはないものと認められ、信用性も十分認めることができる。

また被告人今西、同畠山の検察官に対する供述についても、同被告人らにそれぞれ疾病があり、被告人今西は別件に対する逮捕勾留も合わせて拘禁の期間は三九日におよんでいるが、両被告人の疾病は前記被告人伊藤のそれに比し、やや軽度のものであり、その取調状況についても強制の行われた事実もなく、ことに被告人今西が自供するに至つたのは前掲の帳簿等から生じた嫌疑につき追求されたことによるものであり、その他に被告人両名が一般的に虚偽をいうおそれのあるような外形的事実は認められず、その任意性に欠けるところはないし、前記認定の範囲内で十分信用性を認めることができる。(高橋幹男 福嶋登 吉本俊雄)

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